音は記録の対象であると同時に、表現・批評・設計・教育といった広範な領域へと接続可能なメディアです。これまでの学習での知見と技術を「どのように活用し、社会と接続していけるか」、特に、プログラムアートにおける音の応用や、サウンドスケープという環境的・批評的な聴取の視座に焦点を当て、音とコードがひらく創造的な実践の可能性を考察します。

サウンドと表現

音は、単なる物理現象にとどまらず、視覚・言語・身体を横断する複合的なメディアです。サウンドアートやアコースマティック表現は、音を素材としつつ、空間・時間・聴覚の条件を問い直す芸術実践になります。

生成的音響表現(Generative Audio)とプログラムアート

RMSやFFT解析など音のデータを使用したビジュアルやモーションを生成する表現が注目されています。Processing や openFrameworks、TouchDesignerなどのデジタルツールを利用し、環境音の変化に応じて動くグラフィックや、空間に拡がる仮想的な音の“彫刻”を制作することが可能になります。

Fragments of Cubism

音による抽象的記述

「この場所はどんな音がするか」ではなく、「この場所をどんな音で描写するか」という視点で、音そのものが、言語化されない情報を含む媒体であることを意識します。抽象的な表現には、絵画、イラスト、写真、彫刻、具体音楽(ミュージックコンクレート)、身体的な動き(ダンス)など様々です。

3D空間表現と没入的音響

バイノーラル録音や Ambisonics による立体音響技術は、空間における音の配置と移動を設計する芸術表現において不可欠になります。Apple visionのようなバーチャルデバイスでの使用や、360度投影可能なドーム施設による3D映像との組み合わせなど、音を最大限に使用した空間を演出します。

Taiwan Contemporary Culture Lab

環境と記録:サウンドスケープの視点

フィールドレコーディングは、環境を聴覚的に記述する行為であり、サウンドスケープの理解と切っても切り離せません。

Soundscape(サウンドスケープ)とは?

Soundscapeは、カナダの作曲家・環境音研究者 R. Murray Schafer(マリー・シャーファー) によって1970年代に提唱されました。彼の代表的な著書『The Soundscape: Our Sonic Environment and the Tuning of the World(世界の調律-サウンドスケープとはなにか)』で広く知られるようになります。

世界の調律: サウンドスケープとはなにか

R. Murray Schaferが提唱したサウンドスケープ理論では、音環境を「耳で感じる風景」として捉え、以下のような分類と分析の視点があります。

  1. Keynote Sounds – キーノート・サウンド
    その環境にとって背景的で無意識に存在する音(例:都市の空調音、風の音)
  2. Keynote Sounds – シグナリング・サウンド
    意識的に聞かれる音、意味を持つ音(例:チャイム、アナウンス)
  3. Soundmark – サウンドマーク
    その場所を特徴づける固有音(例:教会の鐘、漁港の波音)

サウンドスケープの評価と分析

現代では、音の環境を評価するために国際的な基準(ISO 12913シリーズ)が作られています。音の大きさだけでなく、「心地よさ」や「活気」など、聞く人の感じ方を大切にして評価する方法です。

また、評価や分析には、対象となる空間や物体・季節や時間・録音者の背景など様々な観点や要因によって異なります。

  • サウンドマッピング
    録音した音と場所の情報を地図にまとめて、時間や場所ごとの音の変化を可視化する。
  • サウンドジャーナリング
    音の録音と一緒に、その時感じたことや音の意味を書き留めて、聞く体験を記録する。
  • 音の生態学的評価
    自然の音を使って、環境や生き物の変化を調査。たとえば、鳥の声の数が減ると環境の変化がわかるなど。

サウンドスケープの応用

サウンドスケープの考え方は、アートや環境保全、まちづくり、教育などさまざまな分野で使用されています。

  • アート分野
    音を使ったインスタレーションや、バイノーラル録音を活用したVR体験などで、音の空間の創出。
  • 環境保全や都市計画
    地域の音環境を評価し、騒音問題の改善や自然環境の保護など。
  • 教育や福祉
    聞くことの重要性を伝えたり、高齢者の記憶を呼び覚ますための音のアーカイブづくりなど。

サウンドスケープは、音が作り出す環境全体、その場所の文化や歴史、人々の営みと関連付けて音を捉える考え方です。視覚的な風景だけでなく、聴覚的な側面からそれらを理解します。

リスニングによるソーシャルデザイン

音は私たちの社会に深く根ざしています。音は単なる情報伝達の手段ではなく、社会的な関係性を映し出す重要なメディアでもあります。

サウンドウォークとリスニング・ワークによる社会的再考

サウンドウォークやリスニング・ワークは、音を単なる背景としてではなく、身体的・社会的な体験として能動的に聴く実践です。特定の場所を歩きながら環境音に集中するサウンドウォークは、普段意識されない音の存在を掘り起こし、その音が作り出す空間や時間の意味を体感させてくれます。そこにリスニング・ワークの要素が加わることで、個々人の聴覚体験を共有し、聞くことの文化的・社会的な側面を深く理解しようとする場が生まれます。

このような実践は、単なる音の受け手としての立場を超え、音を通じて環境や他者との関係を再認識し、社会の見えにくい声や多様な視点を尊重するきっかけとなります。身体感覚を伴う聞く行為を通じて、社会や公共空間における音の政治性や倫理的な配慮も自然と考えられるようになります。

一方で、公共空間での録音や音の記録には法的な配慮も必要です。日本と海外では肖像権やパブリックサウンドの扱いに違いがあり、録音の際にはそれらを十分に理解し尊重することが求められます。

さらに、音が人の記憶や感情に与える影響を活かした教育や障害者支援への応用も注目されています。リスニングを通じた社会デザインは、多様な人々がともに生きる社会の実現に向けた、新しい可能性を拓く鍵となります。

こうしたサウンドウォークとリスニング・ワークは、都市や地域の環境改善、障害者支援、教育プログラムなど多様な社会的課題への応用も期待されており、リスニングによるソーシャルデザインの重要な手法として注目されています。

実践・プロジェクト例

音×コード:リアルタイムビジュアライゼーション

  • マイク入力から取得したFFTデータを使って、周波数帯ごとのアニメーションを生成。
  • Processingで環境音に反応する粒子群(Boids)を制作。

音の地図制作と可視化

  • 録音データとその位置情報、テキストタグ、写真を統合し、地図上に配置。
  • Web Audio APIを活用したインタラクティブ音地図の制作も可能。

フィールドレコーディングから生成音風景へ

  • 環境音を素材に、Max/MSPやPureDataでジェネラティブな音響構成を制作。
  • 時間軸やランダム性を取り入れた“生きた音響彫刻”の制作。

教育・福祉への応用

  • 聴覚が不自由な方へ向けた音の視覚化による展覧会
  • 高齢者が記憶する「懐かしい音」をアーカイブし、再生装置をデザイン。
  • リスニング・ワークショップを通じて、音風景への気づきを共有しましょう。

Field recordingのための音響学習

視覚と違い、「音」は見ることができないため、しばしば抽象的な事象と考えてしまいます。音を理解することは、その抽象性が徐々に形を帯び、新たな創造や発見へとつながります。

また、音をあつかうことは、世界を再び「聴き直す」ことにつがなります。科学や技術の裏打ちをもとにしながらも、そこには創造性、批評性、そして人と環境をつなぎ直す力が宿っています。

barbe_generative_diaryによる音の視覚化

BGD_SOUNDS on bandcamp

BGD_SOUNDSでは、bandcamp上にて、安価で利用できる膨大な著作権フリーのサウンドライブラリーを目指して日々様々な音源ライブラリーを増やしています。音源のほとんどは、192kHzの32bitの高音質にて録音。音楽制作や映像制作など用途に合わせて利用可能です。また、Sound visualization Penplot artも定期的に販売しています。

BGD_CLUB(月額サブスクリプション)も低価格から始めており、すべてのライブラリーにアクセスし自由にダウンロードすることも可能です。

Link / BGD_SOUNDS on bandcamp