Date:2024-03-27
フィールドレコーディング入門|32bit float レコーディング
フィールドレコーディングで機材を選ぶ際、よく目にする「32bit float 録音」。今では一般化しつつある、この比較的新しい録音フォーマットをビギナー向けに解説します。32bit floatとは何か、そのメリットとデメリットやおすすめ機材を紹介。
✓ 本記事はフィールドレコーディングをベースとした内容にて執筆しています。
barbe_generative_diary SOUNDS の フィールドレコーディング
私がフィールドレコーディングを始めたのは、“Sound Visualization(音の視覚化)”というプロジェクトテーマのもとプログラム・アートを作るため、必要な音素材を簡易にてレコーディングしたこと始まりです。その後、様々な環境音に夢中になり、レコーディング技術や編集など、完全に独学で音について学び続けています。プログラム・アート実験作品については、Instagramにまとめています。
Index
32bit floatとは何か。
32bit float を簡単にざっくりといえば、小さな音から大きな音まで忠実に録音できる録音フォーマットです。オーディオレコーディングにおけるbit数(ビット深度)は、音を歪ませることなく捉えるダイナミックレンジを表します。
デジタルレコーディング技術は、1970年代に登場して以来、CD(コンパクトディスク)をはじめ音楽制作に大きな変革をもたらしましたが、CDのフォーマットである16bitでは音質に限界がありました。
1990年代後半になると、24bitの録音技術が登場し、より高音質な音源制作が可能になります。しかし、24bit録音でも、大きな音を入力すると音声が歪んでしまう「クリップ」という現象が発生する可能性がありました。
2010年代に入って、32-bit floating point(浮動小数点演算)録音技術が登場します。プログラミングを行う人にはお馴染みのfloat(フロート)はその名の通り、浮動小数を表します。
32bit floatは、従来の量子化方式とは異なり、浮動小数点数(float)を用いて記録することにより、途方もなく広いダイナミックレンジを実現し、大きな音でもクリップすることなく忠実に記録することが可能になりました。
- 16bit = 約96dB(ダイナミックレンジ)
- 24bit =約144dB(ダイナミックレンジ)
- 32bit float =約1680dB(ダイナミックレンジ)
この浮動小数点演算とは、大きな音でも忠実な再現を行うと良く言われますが、逆に小さな音においても非常に細かな情報を記録します。よって編集時にゲインの調整を行うといった、通常行う録音時に調整の必要がありません。音が予想しずらいフィールドレコーディングの現場や初心者にも扱いやすいフォーマットです。
32bit floatのメリットとデメリット
メリット
- 広いダイナミックレンジ
ダイナミックレンジは、最も大きな音と最も小さな音の差になります。32bit floatは、非常に広いダイナミックレンジにより、小さな音から大きな音まで、歪みなく正確に捉えることができます。 - 高い音質
浮動小数点数演算は、とても細かな録音データ表現を可能にします。そのため、音声の微細な変化やエフェクト処理などの高度な操作が可能になります。録音後の編集時の音量調節やノイズ処理を行なっても音質の劣化が少なくなります。 - オーバーフローの回避
音声のクリッピングを最小限に抑えることができます。ゲインの調整をする必要がないのでフィールドレコーディング初心者にとっても扱いやすいフォーマットです。
デメリット
- ファイルサイズの増加
32bit float 録音は、多くのデータを必要とします。そのため、記録メディアの容量を考える必要があります。フィールドレコーディングにおいて、多くの時間を録音したい場合これら記録メディアの事前準備をして出かける必要があります。 - マイクに対する注意
大音量でもクリップしないというのが32bit floatの特徴ではありますが、音声を受け取るマイクロフォンの精度によってはその通りともいえません。現在販売されている多くのマイクは、ある程度高精度にできているので気にする必要はないかと思いますが注意が必要です。 - 一般的な使用途上での必要性の限定性
一般的なリスニングや音楽制作の場面で、32bit floatの高い精度や広いダイナミックレンジが必ずしも必要と限りません。また、映像制作などのワークフローにおいて、録音技師が録音時にある程度の調整を行うはずが、32bit floatを使用することで、その作業をポストプロダクションに押し付けてしまうといった場合もでてきます。
代表的な32bit float録音レコーダー
フィールドレコーディングにおいて、代表的な32bit float録音レコーダーをピックアップ。
ZOOM F6
ZOOM F6は、フィールドレコーダーとして初めて32bit floatとディアルADコンバーターを搭載したレコーダーです。現在も非常に人気の高く、多機能、6chのインプットに正確なタイムコード、コンパクトな仕様はフィールドレコーディングにとって重宝されます。
ZOOM F3
F6よりさらにコンパクトに32bit float録音できるZOOM F3。2chのインプットに手のひらサイズのコンパクトかつ堅牢な筐体はブームマイクスタンドにベロクロに取り付け使用することもできます。
TASCAM Portacapture X8
フィールドレコーダーに人気の高いTASCAM Portacapture X8は、多機能なハンドヘルド・レコーダーです。ラージダイアフラムコンデンサーマイクを搭載、バックから取り出してすぐに録音を行うことができます。また左右に二つづつ、計4つのインプットがあり、外部マイク入力も行え自由なセッティングが可能です。
Sound Devices MixPre-10 II
Sound Devices MixPre-10 IIは、プロフェッショナルなオーディオ録音に特化したデバイスです。10チャンネルのインプット機能を持ち、32bit float録音に対応しています。軽量で小型な筐体は持ち運びがフィールドレコーディングにとって便利。また、高品質なプリアンプや豊富な接続オプションも特徴的です。
BGD_SOUNDS (barbe_generative_diary SOUNDS)
BGD_SOUNDS では、Sound Visualization(音の視覚化)実験に使用する目的でストックされた、多くのフィールドレコーディング音源の共有と販売を始めています。ほぼすべての音源は、192kHz-32bit floatで録音され、ロイヤリティーフリーにて自由に使用できます。定期的にリリースされますので、音源が必要な方はフォローにて最新情報をチェックしてみてください。
フィールドレコーディング おすすめの本
► フィールド・レコーディング入門 響きのなかで世界と出会う – 柳沢 英輔
フィールドレコーディングに特化した日本語書籍は少なく、本書は貴重な入門書です。フィールドレコーディングの魅力を初心者にも分かりやすく解説しています。
「フィールド・レコーディングとは何か?」「音とは?」「聴くこととは?」など、その他にも「歴史や理論」はもちろん、「実践的な機材の紹介・録音方法や環境の作り方」などを学べます。
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初版/ 2022.4.26
ページ数/302ページ
出版社/フィルムアート社
言語/日本語
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