Date:2023-11-22
フィールドレコーディング入門|機材篇〜マイクロフォン【初心者向け】
フィールドレコーディングの機材の中で最も重要かつ心躍る機材「マイクロフォン」についての記事です。初心者に分かりやすいよう、マイクロフォンについて、その種類やスペック、選び方などを解説していきます。
- フィールドレコーディングで使用するマイクロフォンが知りたい。
- マイクロフォンの購入を検討しているけどどれを買って良いのかわからない。
- 初心者へおすすめのマイクロフォンが知りたい。
といったフィールドレコーディングで使用するマイクロフォンについて解説します。
barbe_generative_diary SOUNDS の フィールドレコーディング
私がフィールドレコーディングを始めたのは、“Sound Visualization(音の視覚化)”というプロジェクトテーマのもとプログラム・アートを作るため、必要な音素材を簡易にてレコーディングしたことがきっかけでした。その後、様々な環境音に夢中になり、レコーディング技術や編集など、完全に独学で音について学び続けています。
下記の映像は、以前、録音した”活版印刷機の稼働音”です。独特でレトロな機械音のレコーディングを行いました。(※ステレオの無指向性マイクとコンタクトマイクにて録音しています。)
Index
- Chapter.1 – マイクロフォンとその種類。
- Chapter.2 – マイクロフォンの指向性。
無指向性(Omnidirectional)
カーディオイド(cardioid)|単一指向性 (Unidirectional)
スーパーカーディオイド(Supercardioid)|単一指向性 (Unidirectional)
ハイパーカーディオイド(Hypercardioid)|単一指向性 (Unidirectional)
双指向性(Bidirectional)
近接効果 - Chapter.3 – マイクロフォンのスペック
感度(Sensitivity)
周波数特性(Frequency response)
最大入力音圧レベル(Maximum sound pressure level)
セルフノイズ|等価雑音レベル(Self noise)
S/N比(Signal-Noise ratio) - Chapter.4 – さまざまなマイクロフォン
ハイドロフォン(水中振動収音)
コンタクトマイク|ジオフォン(固体振動)
バイノーラルマイク - Chapter.5 – オススメのマイク|フィールドレコーディング
無指向性
指向性
ハンディレコーダー
その他 - フィールドレコーディング おすすめの本
- BGD_SOUNDS (barbe_generative_diary SOUNDS)
Chapter.1 – マイクロフォンとその種類。
マイクロフォンとは音を電気信号に変換する機器です。マイクロフォンの種類はさまざまですが、代表的なものとして、『ダイナミックマイク』と『コンデンサーマイク』があります。
ダイナミックマイクは、音による空気振動を振動板(ダイヤフラム)を通し電気信号に変換します。構造が単純なので頑丈で壊れにくく、湿度や高温にも強いという利点があります。外部電源を必要としません。比較的安価に手に入れる事ができます。
コンデンサーマイクは、音による空気振動を蓄電したダイアフラムによる電圧の変化を電気信号に変換します。構造が複雑なので壊れやすく、湿度や高温に弱いデメリットがありますが、コンパクトで感度が高く、ほんのわずかな音にも反応するので繊細な録音をする事ができます。外部電源(ファンタム電源)が必要、一般的には48Vの電圧、そのほか、24Vや9Vもあります。
※ファンタムとは「幻影、亡霊」という意味、電源装置が見えない状態であるため、そう呼ばれています。
一般的なフィールドレコーディングでは感度の優れたコンデンサーマイクを利用します。
ダイナミックマイクのメリットとデメリット
- ダイナミックマイクのメリット
» 丈夫で壊れにくく、湿度や高温に強い。
» 環境ノイズが発生しにくい。
» 比較的安価。 - ダイナミックマイクのデメリット
» 感度が低いので高音質での録音には不向き。
ダイナミックマイクは、人の声を拾うヴォーカルマイクやライブ配信での使用に向いています。
コンデンサーマイクのメリットとデメリット
- コンデンサーマイクのメリット
» 感度が高く、周波数特性の広いので高音質の録音を行える。
» コンパクト。 - コンデンサーマイクのデメリット
» 複雑で壊れやすく、湿度や高温に弱い。
» 比較的高価。
コンデンサーマイクは、繊細な音の録音に向いています。フィールドレコーディングでは一般的にこのマイクを利用します。
Chapter.2 – マイクロフォンの指向性。
マイクロフォンの指向性は、大きく分けて3つ、無指向性、単一指向性、双指向性があります。単一指向性は、一定の方向から音を録音し、指向範囲によってさまざまな種類があります。フィールドレコーディングでは主に無指向性、単一指向性のマイクを利用します。
無指向性(Omnidirectional)
無指向性マイク(オムニマイク)は、マイクを取り巻く周囲360度全ての音を均一に収録します。音を狙った収録ではなく、その場の環境を録音するマイクです。
メリットは、全方向にて、マイクセッティングの自由度が高く、自然なサウンドを収録する事ができます。デメリットは、録音環境によって、バックグラウンドノイズを拾い、ハウリングが起こしやすい場合があります。
カーディオイド(Cardioid)|単一指向性 (Unidirectional)
カーディオイドは、最も一般的な指向性マイクです。指向性の図が心臓形(カーディオイド)に似た図形を描くことからそう呼ばれています。マイクの正面に対し感度が高く、左右にいくにつれ感度は低くなっていきます。有効角度は約130度で、指向性の中では広い範囲の録音が可能です。
メリットは、バックグラウンドノイズを拾いにくく、マイク位置によって狙った音をしっかり録音する事ができます。デメリットは、正確なポジションでのマイク設置が必要になり、近接効果にも注意が必要です。これらは下記に続く指向性マイク全て同様です。
スーパーカーディオイド(Supercardioid)|単一指向性 (Unidirectional)
スーパーカーディオイドは、カーディオイドより収音角度が狭くなっており、約115度の角度で収音します。周囲の環境ノイズを入れず、特定の音を収録するのに向いています。
ハイパーカーディオイド(Hypercardioid)|単一指向性 (Unidirectional)
ハイパーカーディオイドは、さらに狭い収音角度で、約105度の角度で収音します。さらに範囲の絞った収録が可能です。しかし、指向範囲が極端に狭いためマイク設置に気を付ける必要があります。
双指向性(Bidirectional)
双指向性(フィギアエイト)は、指向性の図が8の字を描き、正面と背面に向けて感度が高く、側面からの音はほぼ入りません。対談などの向かい合った二つの音を収録するのに向いています。
近接効果
音源がマイクに近づくにつれ低音が強調される現象が発生します。これを近接効果と呼び、篭ったような音になります。近接効果は指向性パターンと音源の距離によって影響を受け、特に指向性の強いマイクはこの現象が顕著に現れます。指向性マイクを利用する際は、マイクと音源との距離を確認しながらマイクの設置が重要です。
Chapter.3 – マイクロフォンのスペック
マイクロフォンにはそれぞれスペックが表記されています。
- 例:スペック(Sennheiser MKH 8040)
– 開回路感度:20 mV/Pa(自由音場、無負荷、1KHz)
– 周波数特性:30 – 50000Hz Hz
– 公称インピーダンス:25 Ohm
– 最大SPL:142 dB
– ファンタム電源:48V +/- 4 V
– オーディオ出力:XLR
– 寸法:19 x 41 mm (19 x 75mm XLRモジュール含む)
– 重量 :25 g (55 g XLR モジュール含む)
感度(Sensitivity)
感度とは、マイクが音をどれくらい感知しやすいかを示す指標です。感度は通常、dB(デシベル)で表されます。マイクロフォンの感度が高いほど、微弱な音や遠くの音もより良く拾うことができます。
一般的に、マイクロフォンの感度はマイクが94dB音圧レベル(SPL)または1 パスカル(Pa)音圧に対して発生する電圧レベルで表されます。感度が高い場合、同じ音の強さでもより大きな電気信号が生成され、レコーダーの入力レベルを抑える事ができるので後述するセルフノイズの低減にもつながります。
周波数特性(Frequency response)
周波静特性とは、マイクロフォンが収録できる周波数(音の高さ)の範囲を示したものです。
周波数特性は、周波数の範囲と感度を示したグラフで表されます。横軸が周波数(Hz)、縦軸が感度(dB)にて表記されます。(指向性の場合、音源との角度比較もあります。)
このグラフは、マイクロフォン(Sennheiser MKH 8040)が異なる周波数の音に対してどれくらい感度があるかを視覚的に表現します。
一般的に、人の聞こえる周波数は20 Hzから20,000 Hz(20kHz)までと言われており、その間のグラフが横向きにフラットになるものが好まれます。どの周波数帯も均一した感度で収録することができることを意味しています。
※特定の用途においては、狙った周波数帯を強調するために特殊な周波数特性が求められることもあります。
最大入力音圧レベル(Maximum sound pressure level)
最大入力音圧レベル(Maximum Sound Pressure Level、略:Max SPL)は、マイクロフォンが扱える最大の音圧レベルを示す指標です。この値は通常デシベル(dB)で測定されます。
Max SPLは、高音量の環境で使用する際に重要です。過剰な音圧は、マイクロフォンに損傷を与えたり、歪みを生じさせたりする場合があります。マイクロフォンの最大入力音圧レベル(Max SPL)の値が高いほど、より高い音圧環境で使用できます。
セルフノイズ|等価雑音レベル(Self noise)
セルフノイズ(等価雑音レベル)とは、音源が存在しない場合でもマイクロフォンから発生するノイズのことです。セルフノイズはdb(A)にて測定され、数値が低いほどセルフノイズが少ないことを意味します。
S/N比(Signal-Noise ratio)
追記として、S/N比という指標にて表記される場合があります。S/N比とは、信号(Signal)とノイズ(Noise)の比率です。基準となる信号を入力したときの出力レベルと、セルフノイズの比率を意味します。SN比はdbにて測定され、数値が高いほど信号に対するノイズの影響が少なくなります。S/N比の計算など細かな内容は検索するとたくさん出てきます。
Chapter.4 – さまざまなマイクロフォン
一般的なマイクロフォンは空気振動を電気信号へ変換します。ですが、空気振動以外にも水や個体にも振動音が存在し、それを録音するマイクがあります。その他にも、録音方法を固定したマイクや
ハイドロフォン
ハイドロフォン(Hydrophone)は、水中の音を録音するためのマイクロフォンです。一般的なマイクロフォンと同様に、ハイドロフォンも音圧を電気信号に変換する原理を利用していますが、特に水中の音を効果的に捉えるように設計されています。
コンタクトマイク|ジオフォン
コンタクトマイクは、物体の振動を録音するマイクです。空気中の音を捉える一般的なマイクロフォンとは異なり、物体自体の振動を直接検知することで特有のサウンドや音を録音することができます。
コンタクトマイクが物体の振動を音に変換する一方、ジオフォンは、地球(地表や地下)に設置され、地球の振動を録音します。主に地震学や地盤工学の分野で使用され、地球の内部の振動や地震の波を測定します。フィールドレコーディングでも度々使用されており、LOMが提供しているGeofónなど人気です。
バイノーラルマイク
バイノーラルマイク(Binaural Microphone)は、人間の耳で聞こえる音を同捉えるために設計されたマイクロフォンです。リスナーに臨場感や没入感を提供するのに適し、3Dオーディオや立体的な音響環境を再現するのに使用されます。
Chapter.5 – オススメのマイク|フィールドレコーディング
フィールドレコーディングで使用されるマイクロフォンはさまざまです。具体的な使用状況や好みによって最適な選択が異なるため、自身のニーズに合ったものを検討すると良いでしょう。主なメーカーを下記にてリストアップしています。
- Sennheiser (ゼンハイザー)
ドイツのオーディオメーカー。高品質なオーディオ製品で知られ、スタジオからフィールドまで多岐にわたる製品は提供しています。 - Audio-Technica (オーディオテクニカ)
日本メーカー。手頃な価格で高性能なマイクロフォンを提供し、スタジオ録音やフィールドレコーディングに広く利用されています。 - Rode Microphones (ロード マイクロフォン)
オーストラリアのメーカー。コンデンサーマイクやダイナミックマイク、ポータブルレコーダーなどを提供しています。優れた性能と手ごろな価格が特徴でポッドキャスティングでの使用でも人気です。 - DPA Microphones (ディーピーエー マイクロフォン)
デンマークのメーカー。プロフェッショナルなオーディオ業界で高い評価を受ける高性能なマイクロフォンを提供しています。 - Lewitt Audio(ルウィット オーディオ)
オーストリアのマイクロフォンメーカー。高品質かつ革新的なオーディオ製品を提供しています。 - AKG Acoustics
オーストリアのメーカーで、スタジオやライブサウンド向けの高品質なマイクロフォンを提供しています。 - Sony (ソニー)
日本メーカー。フィールドレコーディング向けのポータブルレコーダーやマイクロフォンも提供しています。 - Zoom Corporation
日本メーカー。ポータブルオーディオ機器を専門とし、レコーダーやオーディオインターフェースなどを提供しています。 - TASCAM
プロフェッショナルなオーディオ機器メーカーで、ポータブルレコーダーやオーディオインターフェース、マイクロフォンなどの製品を提供しています。
その他、LOM・Core Sound・micbooster・microphone Madnessなどの小規模メーカーも多くあります。
無指向性|オススメのマイクロフォン
► LOM / basicUcho
コストパフォーマンスに優れたハイクオリティな無指向性マイクです。非常に低ノイズで高感度なのが特徴で、フィールドレコーディング用に設計されています。
► DPA CORE 4060
超小型 無指向性ラべリアマイクです。小型で扱いやすく、オーケストラ録音などでも使用されています。フィールドレコーディングにおいても自然で広がりある音響を収録することができます。また、耐久性にも優れ、一般的なコンデンサーマイクに比べ湿度に強い設計になっています。
指向性|オススメのマイクロフォン
► SENNHEISER ( ゼンハイザー ) / MKE600
スーパーカーディオイドのショットガンマイクロフォンです。コストパフォーマンスに優れ、主にビデオ制作や映画制作などのフィールドで使用する目的で設計されています。クリアでダイナミックなオーディオ収録が可能です。その他、高価ですが同じスーパーカーディオイドのMKH8060など。
► Audio-Technica / BP4025
ステレオマイクを左右に振ったX-Yステレオのコンデンサーマイクです。立体感豊かで自然なステレオ録音が可能です。φ24.3mm大口径ダイアフラムをコンパクトボディに搭載、120°のステレオアングルで録音することができ、デザイン性でも人気の高い製品です。
ハンディレコーダー|オススメのマイクロフォン
► TASCAM / Portacapture X8
ラージダイアフラムコンデンサーマイク付属のハンドヘルドレコーダーです。A-B方式とTrue X-Y方式の切り替えが可能。これ一台をバッグに忍ばせておけば、いつでもどこでも取り出してすぐに録音することができます。外部マイクロフォン接続のためのXLRコネクターもついています。
その他|オススメのマイクロフォン
► LOM / Geofón
フィールドレコーディング用に設計された非常に人気の高いジオフォンです。さまざまな材料や土壌の非常に微弱な振動を捉えることができます。通常のマイクと併用して利用することで厚みのある音を得ることができます。発売数分で売り切れてしまうので、SNSをチェックすることをおすすめします。
関連記事:LOM Geofón / Review(barbe_generative_diary)
► Adphox / BME-200
立体音響録音のバイノーラルマイクです。補聴器開発で得たノウハウを生かし、耳に装着して簡単にバイノーラル録音を行います。イヤホンとマイクが一体化しているのでつけたままモニターしながら録音することができます。デメリットとしては、マイクがほぼ剥き出しなので風吹かれに弱いです。
► KORG / CM-300
チューナー用のコンタクトマイクです。コストパフォーマンスが非常に高く、振動音を録音し、楽しむことができます。
フィールドレコーディング おすすめの本
フィールド・レコーディング入門 響きのなかで世界と出会う – 柳沢 英輔
初心者にも分かりやすいようにフィールドレコーディングの魅力を解説しています。「フィールド・レコーディングとは何か?」「音とは?」「聴くこととは?」など、その他にも「歴史や理論」はもちろん、「実践的な機材の紹介・録音方法や環境の作り方」なども学べます。
実際、読むだけでなく、今すぐフィールドレコーディングに行きたいと思える本。カメラを旅行に持っていくように、ハンディレコーダーを持って出かけましょう。
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► 『フィールド・レコーディング入門 響きのなかで世界と出会う』(柳沢 英輔)
初版/ 2022.4.26
ページ数/302ページ
出版社/フィルムアート社
言語/日本語
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BGD_SOUNDS (barbe_generative_diary SOUNDS)
BGD_SOUNDS では、Sound Visualization(音の視覚化)実験に使用する目的でストックされた、多くのフィールドレコーディング音源の共有と販売を開始しました。音源は全てロイヤリティーフリーです。今後、少しづつリリースを行なっていきます。
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